筑波大学附属盲学校高等部における拡大教科書への取り組みの現状と課題

筑波大学附属盲学校 宇野和博 明比庄一郎 池田典子 金子修 左振恵子 雷坂浩之 
筑波大学心身障害学系 鳥山由子
株式会社「大活字」 市橋光正 成松一郎

 1.はじめに

 現在、盲学校の高等部に在籍するロービジョン(以下、LVとする)の生徒には一般の教科書が配布されている。しかし、一般の教科書では文字が細かったり小さい部分があったりするため、読みにくさを訴える生徒も少なくない。よって、拡大コピーすることもあるが、単に拡大するだけでは、字が細かったり、紙が大きくなりすぎたり等々、LVにとって読みやすいものが作られるまでには至らない。
 また、高等部段階の拡大写本は種類が少なく、拡大写本ボランティアともうまく連携がとれていないことから、生徒が使えるような拡大教科書がほとんどないのが現状である。
 よって、LV生徒が個別に拡大写本のボランティアへ依頼したり、近年では、生徒自身がコンピューターを使って自分用の拡大教科書を作るケースも出てきている。
 そこで、点字使用者に点字の教科書が補償されているのと同様に、LVの生徒にも必要に応じて拡大教科書を補償する必要があると我々は考え、「拡大教科書研究会」を筑波大学附属盲学校の中に設立し、種々の取り組みを開始することにした。 

 2.取り組みの経過(研究会の動き)

1998年 4月  研究会の発足を筑波大学附属盲学校内普通科会議(以下、普通科会議とする)で検討。
5月  椛蜉字と連絡調整し、研究会発足に向け、準備。
6月  ・普通科会議で研究会発足を決定。
 ・全国盲学校普通教育連絡協議会(以下、普連協とする)との連携により、盲学校全校に対して拡大教科書に関するアンケートを実施し、LV生徒の教科書に関する実態調査を行ったところ、全国的に拡大教科書のニーズが(潜在的に)あることを認識。【資料1参照
7月  ・第1回拡大教科書研究会(構成メンバーは、本校教員有志、本校卒業生有志、普連協事務局、椛蜉字)本校高等部第1学年にて、拡大教科書の作成・配布及びその活用についての試行を始めることを決める。
 ・文部省に対して普連協より「LVのための拡大教科書も就学奨励費の対象とすべきである」との問題提起。
9月  本校高等部第1学年の国語T教科書の拡大版作成及び配布に向けて試行を開始。生徒から、その使用感について聞き取りを実施。
10月  ・聞き取り結果を基に次の単元の拡大教科書を作成。
 ・第2回研究会。試行状況の報告。今度の動きについて検討。 
11月  ・2回目の生徒からの聞き取りを実施。次の単元(作品)の基礎データとする。
 ・第3回研究会。国語科の教員も交え、拡大教科書の構成等(ルビや挿絵、紙の大きさ、横書き)について検討。

3.拡大教科書の作成・配布および活用の試行内容

 本校高等部第1学年に対する、国語Tの教科書の拡大版作成および配布に向けた試行の内容は、以下のとおりである。なお、個々の生徒の眼疾の特性や視力に応じた拡大教科書の作成には、椛蜉字の協力を得た。一度に提供する教科書の分量は一作品とし、分冊の形を取った。

 1回目はLV生徒10人全員に片面印刷のものと両面印刷のものを配布した。紙の大きさはB5とし、反射を考慮してクリーム色の紙を使用した。本文の字体はゴシック体、字の大きさは20ポイントとした。また、縦書きとし、1ページ1行に20文字で、10行入るよう設定し、挿し絵は省略した。
 生徒に対する1回目の聞き取りで、まず今後も6名の生徒が拡大教科書を希望することを把握した。そして、個々に紙の大きさ、紙質、字体、文字の大きさ、文字間、行間、レイアウト、白黒反転の希望等について聞き取りを行った。また、挿し絵についての意見も聞いた。さらに、国語科の教員にも助言をしてもらい、以下の部分を改善することとした。

(1)注釈(脚注部)は各ページの下部にいれる。
(2)新出漢字の字体はゴッシク体では、「はね」や「はらい」がわかりにくいため教科書体にする。
(3)白黒反転を希望する生徒には、反転したものを提供する。
(4)指導上必要な挿し絵や図表・写真は、拡大するなどして可能な限り入れる。

 こうした改良を基に、2回目は個々のニーズに応じた拡大教書を配布した。【資料2参照】

 次に、引き続き使用を希望した6名の生徒に対する2回目の聞き取りを行ったが、この時は個々の生徒の拡大教科書の改良点を聞いただけでなく、挿し絵や写真、図表についてどうすれば見やすいのか、横書きはどうなのか、という点も調査した。
 結果、挿し絵や写真については、あまりコントラストがはっきりしないものや情報量が多すぎるものは余分な部分を省く必要があることが分かった。また、ルビ行が行間隔を狭めているという欠点も生じており、ルビの見えにくさの補償手段、人名漢字等に対するルビをふる回数等も検討課題となることがわかった。
 よって、3回目の配布に際しては、A4サイズの用紙でのサンプルを作り、行間隔を広げる工夫を図ることのほか、以下の点を改善することとした。

(1)注釈(脚注部)は、各ページの下部1/3程度のスペースとし、字体は本文と区別できるものにする。
(2)挿し絵・写真・図表は単なる拡大だけでなく、掲載するものを取捨選別すると共に、必要により線を太くしたり、より見やすいものに作り替える。

 また、この時点での調査では、縦書きを希望する生徒がいる反面、横書きを求める生徒が出てきた。横書きの拡大教科書の作成に向けては、国語科教員から漢数字の表現方法と読点等の扱い方をどうするのかという問題の指摘を受けた。加えて、和歌・俳句等の作品の区切り方(拡大することにより行替えせざるを得ない部分)が、作品の解釈に影響を及ぼすことへの対策や、巻末の「活用形」などの文法資料の拡大方法などに関しての検討を行った。

4.今後の課題

 【資料1】「拡大教科書に関する実態調査まとめ」(全国盲学校普通教育連絡協議会)に示すとおり、全国の国公立盲学校高等部在学者の内で、墨字使用者377名中215名(57%)の者が拡大教科書を希望している。普通高校で学ぶLV生徒においても、同様のニーズを持つ者が多いことが推測される。
 今回、国語という一教科のみにおける拡大教科書の作成・配布およびその活用に関する試行の状況を報告したが、今後はその他の教科それぞれの拡大教科書及び拡大資料に関しても詳細に検討を重ねていく予定である。
 また、全国で学ぶLV生徒のために、一日も早く、読みやすくかつ安価な拡大教科書が提供できるよう、以下のような課題にも同時に取り組んでいきたいと考えている。 

(1)全国のLV生徒に使いやすい拡大教科書を作成・配布していくシステムをどう構築していくか。
(2)その費用に就学奨励費をあてることができるのか。
(3)著作権の問題はどうするのか。
(4)盲学校だけでなく、普通科に通うLV生徒に拡大教科書をどう普及していくか。
(5)拡大写本ボランティアとの連携をどう図るか。

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