高等部における新入生オリエンテーションについて
ー初期調査・評価の内容及び問題点ー

筑波大学附属盲学校 養護・訓練部
雷坂 浩之


1.はじめに
 筑波大学附属盲学校(以下、本校とする)では、毎年新入生オリエンテーション(以下、オリとする)を行っている。そもそも本校のオリとは、新入生が新たに迎えた環境に対する適応を早めたり、新たな生活に向けて必要な各種のルール等を熟知させるという目的を持つものであるとともに、教科学習や養護・訓練(以下、養訓とする)指導を進める上での初期調査・評価の場ともなっている。
 しかし、オリの期間に行う各種の調査から得られる結果に関しては、未だ十分に活用されるまでには至っていない。よって、今回は本校高等部で行った養訓部のオリにおける初期調査の内容を紹介するとともに、評価資料の活用の実施及びその問題点を中心に報告する。

2.高等部新入生オリ全般の概要 *1
 (1)対象 
    本科普通科及び音楽科1年全員
    点字使用者(全盲生):10名
    墨字使用者(弱視生):8名        
 (2)構成及び指導時数
     担任による学級指導関連オリ  10時間
     図書・保健室等専門部のオリ   2時間
     生徒会関連のオリ          4時間 
    〇養訓関連オリ            13時間 
 (3)養訓オリの内容及び指導時数(別紙資料1参照
    養訓の説明(講義) 1時間
    全盲・弱視の生活上の配慮(講義) 0.5時間
    校内地図の理解(講義) 0.5時間
    校内FAM 3時間(弱視生 2時間)
    手引き指導(校内FAM含む) 2時間
    補助具・機器等の紹介 1時間(弱視生のみ)
   〇歩行調査 2時間(全盲生のみ)
   〇点字調査 2時間(全盲生のみ)
   〇視機能検査 2時間(弱視生のみ)
   〇文字調査 2時間(弱視生のみ)
    調査の解説・指導計画の説明等 2時間
3.各調査の目的及び内容
 (1)全盲生を対象とした調査
@歩行調査
 歩行調査とは、個々の全盲生が高等部入学段階までに身につけた歩行能力等を評価し、養訓の指導時間において新規・補完あるいは矯正指導等が必要であるか否かを判断するためのものである。
 検査内容は、白杖の処方状況、タッチテクニック等、杖の基本的操作技術、歩行姿勢、直線・リズム・ガイドライン歩行、触地図の理解、簡単なルート歩行などである。
A点字調査
 歩行同様、個々の点字使用者の高等部入学段階までの点字の習得状況を把握し、補完指導等の必要性を判断するものである。この場では、50音・メの字・英語を含めた分かち書き及び用紙1P当たりの触読速度を検査する。
 調査結果を数値として各教科担当者に提供することで、教科指導上の配慮をも期待するものである。  
 (2)弱視生を対象とした調査
@視機能検査
 入学当初の個々の新入生の視覚に関する情報は、入学時に提出される眼科診断書のみである。よって、近方視力、最大視認力、所有する補助具の処方状況、視野・しゅう明・眼振の程度等の眼疾特性を検査したり、本人の希望する学習環境上の配慮事項や医学的禁忌事項等を聞き取り、その情報を各教科担当者へ提供するものである。
A文字調査 *2
 弱視生の見え方の違いや視力の程度に応じ、個々の生徒それぞれの適切な文字フォント・ポイント、文字間・行間、ルビサイズ、用紙サイズ等の検査を行う。個々の生徒の適切文字サイズ・フォント等の情報は、各教科担当者に提供するとともに、教材作成の資料として活用するよう依頼もしている。また、反転教材の効果、適切文字による読速度が極端に低い生徒には、本人の意思を確認するとともに、点字への切り替えを指導することもある。
 なお、カナのみの手紙文の清書作業を通して、書写時の文字の読みやすさ、文字の正確さ、漢字に関する理解の程度を把握することで、養訓としての文字指導の必要性の有無を判断している。

4.問題点
 (1)養訓としての指導計画上の問題点
 そもそも、高等部1年の段階の必修単位として養訓で準備する指導メニューは、歩行・点字・文字指導・生活訓練の4項目となっている。ただし、歩行指導は「マン・ツー・マン」を指導体制の原則としていることから、専任スタッフの大半が担当することになる。そのために、生活訓練は2ねん時以降の選択単位として開講せざるを得ない実情にあり、実質3項目にそれぞれの生徒を割り振ることとなっている。つまり、「先に指導項目ありき」の初期調査になっているという問題点が挙げられる。
 よって、初期調査の経験をVTRに記録したり、評価資料(別紙資料2参照)を作成しても、養訓の専任スタッフである私自身がそのデータを指導場面で十分に活用しているとは言い難い。恥ずかしながら、初期調査自体が単なる「調査のための調査」になってしまいがちな面もある。
 近年本校においても、入学してくる生徒の「質」が徐々に低下している傾向にある。学力のみならず身辺自立の程度においても、かつての「ほぼ均一?」な時代と比較すると、個々の生徒の格差が大きくなっている。よって、身辺自立を含む各種生活技能の分野に対しても、個々の生徒に必要な指導計画を立案・実施できるような初期調査のあり方を模索すべきであると考えている。 
 (2)各教科担当者への情報提供上の問題点
 別紙に示す「調査結果」・「拡大文字サイズ」等の評価資料は、オリ終了後の当該部の会議において、養訓以外の教科担当教員全員に配布しているものである。しかし、教科指導の場面における教材作成や教室環境の整備等で、こうしたデータを活用しているのは、視力や眼疾の特性が把握できず、具体的な配慮の方策がわからない、思い浮かばないと言うのが実情のようである。
 よって、教材作成に関する技術的な学習会、視力数値の把握の仕方や配慮事項等に関する勉強会準備しているところである。


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