ロービジョン生徒のための「料理のレシピ集」の試行例

筑波大学附属盲学校 Low Vision Club

池田典子 左振恵子 明比庄一郎 宇野和博 雷坂浩之

  1.はじめに
 筑波大学附属盲学校 Low Vision Club は、ロービジョン(以下、LVとする)生徒の学習環境の向上を目的として活動を行っている教員有志の会である。その中の活動の一つとして、昨年度から「電子データでの教材提供(電子教科書)」についての取り組みを行ってきた。
 昨年度、本研究会で「HTMLファイルを利用した電子教科書の一例」という表題で発表を行ったが、今年度も引き続き、電子教科書の試行例について発表することとする。
 昨年度作成した社会科教材については、教科書の改訂の時期と重なり、生徒への試行を行うことが困難になってしまった。そこで今年度は、LV生徒からよく聞かれる「お店で売っている料理の本は見にくい・使いにくい」という声と、紙面上で出来る配慮に比べ、音声等を組み込みことができるというデジタルデータの利点に着目して、「料理のレシピ集」を題材として選定した。


2.「料理のレシピ集」作成上の観点
 (1)データの型式について
 「料理のレシピ集」はHTMLファイルを利用して作成した。HTMLファイルを利用した理由は、以下の3点である。
  a.ブラウザソフトはほとんど全てのパソコンに入っている。
  b.ブラウザソフトの画面をLV生徒の見やすい環境に設定変更することができる。
  c.音声や画像を取り入れることができる。

 (2)入力文字サイズ・レイアウト等について
 作成時にどのフォント・サイズで入力するのが適切であるか、どのようなレイアウトが見やすいのか等の検討を行った。主に、ブラウザソフトのInternet Explorerの画面表示を最小に設定した場合と最高に設定した場合のものをもとに比較検討した。

 (3)画像について
 図や写真の見やすさ、提示する場所、拡大方法を検討した。

 (4)音声について
 LV生徒の中には、肉の焼き加減や野菜の炒め具合等の視覚的な確認ができない生徒が多い。無理に視覚を活用しようとするとフライパンや鍋に顔を近づけなければならず、安全面を考えると、かなり危険な行為となってしまう。そこで、視覚的な手がかりが使えない生徒の調理指導を行う時は、臭いや音、菜箸やフライ返し等の道具から伝わってくる感覚等を適宜手がかりとして指導している。
 本研究では、「料理のレシピ集」という点を考慮し、どのように音声情報を挿入するのが効果的であるかを検討した。

 (5)内容について
 この料理のレシピ集は、「一人暮らしを前提とした調理」の授業で使うことや、卒業学年へ配布することを想定して作成した。したがって、内容に関しては、主に以下の点について配慮した。
  a.調理時の安全性に重点をおく。
  b.調理手順は、LV生徒が理解しやすい手がかり等を盛り込んで記述する。
  c.比較的手軽に作れるメニューを中心に構成する。


  3.おわりに
 この料理集を作ろうと決めた時は、「あれもやりたい」「これもやりたい」とLV生徒が利用しやすいように様々な試行を行うつもりで、構想が膨らんでいたが、まずメニューを決める段階でかなりの戸惑いを生じることとなった。見え方を配慮することも大切であるが、調理経験は生徒によって異なるため、メニューの選択がかなり重要となってくる。授業を履修していない生徒でも利用出来るように、基本を押さえ、なおかつ応用が利くようなメニュー作りは、観点がいくつもあって大変であった。また様々な倍率に対応するレイアウトを考慮した画面作りは、やはりどこかに無理が出てしまうようである。
 本大会で発表するにあたり、数人の生徒の感想を聞いてみたが、本来の目的が達成できたのか否かの評価は、このCD-ROMを使ってみた卒業生の感想を待つこととなる。

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