ロービジョン生徒の個に応じた読書教材提供の試行例
〜筑波大学附属盲学校LVCの活動報告より〜

 筑波大学附属盲学校
   左振 恵子・池田 典子
   明比 庄一郎・宇野 和博
   雷坂 浩之 

1.はじめに
 1996年に筑波大学附属盲学校内に発足したロービジョンクラブ(以下、LVCとする。)は弱視教育の充実と発展を目指す教員の有志団体である。ロービジョン生徒(以下LV生徒とする。)の学習環境の向上のために、定期試験における適切な文字配慮についてや教室環境の整備、LV生徒個々に適した文字の調査方法について取り組んできた。また、第40回及び41回の弱視教育研究全国大会において発表を行った高等部の拡大教科書についても引き続き取り組んでいる。
 近年は情報機器が急速に発達し、LV生徒の学習環境、特に文字に関する配慮を効率的に行うことが可能になってきている。また、「個に応じた指導」がこれからの教育の目指すべき姿でもある。そこで、以下に個に応じた学習環境の整備という観点から、LV生徒のための文字調査のあり方と「電子教科書」(仮称)への取り組みについての二つを報告する。

2.LV生徒のための文字調査のあり方
(1)本調査で提示するサンプルについて
 【文字サンプル】 図1・図2・図3
 フォント毎にB5版のコピー用紙1枚に印刷した。
 @漢字仮名混じり文
  ポイント:12P・16P・20P・24P・28P・32P(4ポイント刻みの計6種類)
  フォント:明朝体・MSゴシック体・白黒反転明朝・白黒反転ゴシック
 A数字
  ポイント:12P・16P・20P・24P・28P・32P(4ポイント刻みの計6種類)
  フォント:明朝体・MSゴシック体・白黒反転明朝・白黒反転ゴシック
 B英語
  ポイント:12P・16P・20P・24P・28P・32P(4ポイント刻みの計6種類)
  フォント:Century Old-R・Arial・Arial Bd・白黒反転Century Old-R・白黒反転Arial・白黒反転Arial Bd 
 
    


 【読書サンプル】図4〜図5
 B5版のコピー用紙を使用し、各文字ポイント(12・16・20・24・28・32)対して、行間3種類×文字間3種類の計9種類とし、マージンは、上下左右20mmとした。 白黒反転のものは用意していなかった。文章は小学校3〜6年生の国語の教科書から引用した。
 
 


(2)これまでの調査の経過
〇1997年〜1998年の調査方法
 @ 文字サンプル(図1・図2)から生徒の見やすいフォントを選択させる。 
 A 生徒が選んだフォントの通常の文字サンプル(図1)とそれを白黒反転したサンプル(図3)を提示し、見やすい方を生徒に選択させる。 
 B Aで生徒が選んだサンプルから生徒の読みやすい文字ポイントを選択させる。
 C Bで生徒が選んだ文字ポイントの読書サンプルで、読みやすい文字間の物(図4)を選択させる。
 D Cで生徒が選んだ読書サンプルで、読みやすい行間の物(図5)を選択させる。
 E Dで生徒が選択した読書のサンプルを音読させ、1分間で読める文字数を測定する。
 D 補助具を使用している生徒には、補助具を使用した状態でも、@〜Eの手順(Aは省略)を行う。
〇1999年〜2000年 
 今までの方法では生徒の見易さのみを重視し過ぎているので、従前までの調査方法に「読書効率」を判定できるような観点を加え、上記の手順に以下のものを付け足すこととした。生徒が選んだ文字ポイントの上のポイント(例:20Pを選んだ場合は24P)と下のポイント(例:20Pを選んだ場合は16P)のサンプルも音読させ、文字数を測定する。
 また、読み速度の測定の際に、視距離の測定を行う事とした。この方法を行った結果、少しではあるが、生徒自身が見やすいと答えたポイントより上もしくは下のポイントの方が、読み速度が上がるケースが見られた。
〇2001年
 この4年間の取り組みの中で、いくつかの問題点等が明らかとなったので、以下の通り改善を行った。
 ・ポイントは今までと同じものを使い、フォントはMS明朝の太字・MSゴシックの太字とし、読書サンプルにも白黒反転を用意する。
 ・対象児童・生徒に合わせて、小学校高学年用・中学生用・高校生以上用の3種類を用意。
 ・読書サンプルのマージンは以前のものと同様とし、文字間・行間は1種類とし、用紙はA4版の用紙を使用する。
 ・数字については、検討中
 ・英語については、フォントの調査を行っているので、2001年度は行わない。

(3)考察
 LV生徒の教材を作成する上で、最適文字サイズの決定は作成する側もかなり悩むところである。この方法は、比較的簡単に最適文字サイズの調査ができるので、拡大写本のボランティアや弱視学級の教師等の現場で悩んでいる方々には、教材を作成する上での助力になるのではないかと考える。
 ただしこの調査方法は、生徒の読みやすい姿勢での読み速度の測定を行っているので、最高読速度が出ているものが最適文字サイズとは言い切れない面もある。例えば極端に姿勢が悪い場合や読み教材の内容によっては、その上のポイントを採用するなどの柔軟な対応が必要である。その際は、生徒と話し合い、納得をさせてから決断する事が望ましい。また、補助具を利用して読む方が、圧倒的に読速度が速い場合は、無理に拡大を考える必要もない。
 小学校低学年用のサンプルを用意していない点については、以下の二点の理由が挙げられる。一点目は小学校低学年の教科書はかなり大きな文字で書いてあるので、拡大の必要がほとんどない。二点目は、補助具の活用は低学年からきちんと見につけておく必要があるので、拡大教材に頼るのではなく、補助具の利用に慣れることが大切である。
 2001年度より白黒反転のサンプルを用意した理由は、パソコンで比較的簡単に反転教材が提供できるようになってきたからである。インク代は多少かさむが、白黒反転のものをコピーするよりもきれいに作成できるので、学校現場でも取り入れられる時期が来たのではないかと考える。
 なお、LVのための情報交換の場として、LVCの部屋というホームページを開設したので、是非ご覧頂きたい。本調査サンプルも、2001年5月より下記のホームページ上からの提供を計画している。
  LVCの部屋 URL
     http://web11.freecom.ne.jp/~lvclub/

3.「電子教科書」への取り組みについて
 パソコンの急速な発達により、LV生徒がディスプレイ上で文字を自分の見やすいフォントやポイントで表示させることが可能になってきている。この方法は紙での教材提供に比べ、瞬時にレイアウトを変更したり、見付けたい場所をすぐに検索できるなどの長所が多い。2002年には教科としての「情報」も始まり、LV生徒の情報処理技術の向上も期待できる。以上のことを考え合わせ、「電子教科書」を実験的に作ってみたので、ここに報告する。

(1)試作した電子教科書
 本来なら、生徒が実際に使用する教科書で作成を試みるべきであるが、教科書の改訂と時期が重なり、無理であったため、授業で副読本的に使用される本(本文中では教科書と表示)を利用することとした。また、この電子教科書は誰でも手軽に使用できるように、パソコンのブラウザソフトを利用して、読み進めることができるようにした。以下に電子教科書の概要を記す。 
 *この電子教書はホームページビルダーというソフトを利用して作成した。また、図や表はAdobe Acrobatを利用しPDFファイルにしている。
  なお、説明中に使用している図では、リンクが貼ってある部分を四角で囲んで表示してある。
 @最初の画面
  ・使用法の説明
  ・表示画面(通常及び白黒反転)の選択
  ・本来の教科書の表紙へのリンク   
 A目次(図A図B
  本来の教科書のページ数も記述
 B本文(図C
   語句説明及び図や表はリンクで表示
 C図や表、語句のリンク(図D・図E
   各項目の後には、本文に戻ることができるように配慮 
 
(2)電子教科書の問題点
 電子教科書を作成するにあたっての一番大きな問題点は、著作権・電子データーの入手のについてや生徒のパソコンの操作能力等があるが。ここでは画面表示に絞って述べていくこととする。
 @文字の大きさ
 今回作成した電子教科書は作成段階で文字の大きさをほぼ最大にしたが、パソコンのブラウザソフトを利用して見るため、使用するソフトやディスプレイのサイズなどによって文字の拡大率が一定しない点。
 Aリンク色
 リンクが貼られている文字の色は、できるだけコントラストを高めたが、その語句や図をリンク先で見て、本文に戻った時の文字色を通常の様に変更した方が良いのか、そのままの色の方が良いのか、色を変更するならリンクに行く前の色とどの程度色を変えるのか。
 Bリンク先から戻った時の本文
 リンク先から【戻る】で本文に戻った時、本文は自動的にリンクの貼ってある語句の行を一番上の行に配しているので、リンクに行く前と画面表示が変わってしまっている(図F図G)。技術的には、リンク先へ行く前の状態に画面表示を戻すことも可能であるが、すぐに今まで読んだ場所を探すことが難しいケースも考えられる。従ってどちらがより見る側にとって、有効であるか。


 
 C画面表示の方法
 今回は画面全体に本文がくるようにした(図C)が、フレーム機能を取り入れて、メニュー画面を本文の横や上下(図H・図I)に入れた方が良いのか。
 
  



Dその他
 【戻る】の表示の場所はどこが最適か。

(3)電子教科書のまとめ
 今回試作した電子教科書は、必要ならばインターネットに接続して、その内容に関連したサイトにリンクすることも可能であり、実際の教科書上では見えにくい図や表も、より見やすいものを提供できる可能性がある。また、サイトにリンクしないまでも、自分の見えやすい大きさに図や表を拡大することができる。このメリットはかなり大きいのではないかと考える。パソコンの画面は見ていると眼が疲れやすいという問題もあるが、必要に応じて利用していくことができれば良いのではないだろうか。 
 本研究は電子教科書を試作してみただけで、まだLV生徒に見せてはいない。今後は、実際の場でLV生徒に使用してもらいながら、上記の問題点を考え、より見やすく操作しやすい電子教科書を探求していく予定である。 



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