「弱視生徒に対する読書支援教材の紹介」
ーPDF及びHTMLファイルの活用ー

筑波大学附属盲学校
養護・訓練部 雷坂 浩之

 これまで、弱視生徒の読書環境は、CCTV(拡大読書器)やルーペ等の光学的補助具によって支えられてきた。こうした補助具は、専ら「印刷物」を高倍率に拡大し網膜像に映し出すという点で、有効な役割を果たしてきた。
 しかし、近年のパソコンの発達やインターネット等の普及により、「印刷物」としての生成及び提供が中心であった読書教材が、今後は「ペーパーレス」による「電子データ化」の方向に進むことが予想される。
 「電子データ」を紙媒体に印刷し、従前と同様の読書環境を継続することも吝かではないが、パソコンを媒体とした既存のブラウザソフトやプラグインソフト及びそこで利用されるファイルを活用することにより、個々の低視力弱視生徒の「それぞれの見え方」に応じた読書環境を整備することが、比較的容易になってきた。
 特に、パソコン画面の表示形態に関しては、フォント・ポイント・反転の加工は言うに及ばず、拡大表示と言う観点での効果が高いので、今回の授業公開では、その方法を中心に紹介したい。
 ただし、公開する内容は、本校の弱視生徒に対する教材の紹介を目的とした授業であり、未だ指導の実践が伴ったものではない。今後の指導場面への導入に関しては、参観者の方々からも多くのご意見を頂きたいと考えている。
1.拡大画面の視認効果について(資料参照)
@資料1
・インターネット上のWEBサイトからダウンロードした作品(宮沢賢治:「銀河鉄道の夜」:テキストデータ)を、Wordにて反転加工した後、AcrobatにてPDFファイルに変換し、Acrobat Readerにて読み込み、433%拡大表示したものである。サムネールを併せて表示することで、作品全体の中で、何処のページのどの部分を見ているのかが分かる。  
 読書支援としての効果は大きい。拡大しても原版のレイアウトは壊れない。

PDFー明朝体 白黒反転 400%

A資料2
・インターネット上のWEBサイトからダウンロードした作品(宮沢賢治:「風の又三郎」:HTMLファイル)を、そのままNetscape Communicatorに読み込み、ポイント値を上げて拡大表示したものである。
 読書支援としての効果が最も大きい。拡大すると原版のレイアウトは壊れるが、文字の大きさを変えても正確な文字送りができる。

HTMLーゴシック体 背景色加工

B資料3
・ゲーム関連雑誌の新商品の紹介ページをスキャナーで取り込み、AcrobatにてPDFファイルに変換し、Acrobat Readerにて読み込み、602%拡大表示したものである。表示部は、原図の約1/10の範囲である。もととなる印刷物が画像であるために、ファイルデータがおおきく(720dpiで取り組んだため約150MB)表示にやや時間がかかる。
 地図等の比較的細かい資料を部分的に拡大して表示できる。拡大しても原版のレイアウトは壊れない。

PDFー雑誌をスキャナーで取り込み加工 600%拡大表示

2.使用したファイル形式の概要
@PDF(Portable Document Format)
文字の大きさやフォント、、装飾や段落・ページ構成などのレイアウト等、作り手の意図を忠実に再現するために、既存の紙媒体(印刷物)の代替として開発されたファイル形式。このファイルを読むためには、Acrobat Readerというリーダー専用ソフトが必要。また、一般的なテキストファイルをPDFファイルとして生成・加工するためには、Acrobatというソフトが必要。
AHTML(Hyper Text Markup Language)
インターネットのWEBページで最も一般的に利用されているファイル形式。このファイルは、ブラウザソフトがあれば誰でも見ることが可能。HTMLファイルの生成・加工には、Word等のワープロソフトが必要。
 いずれのファイルとも、DOS/V機であろうとMacintoshであろうと、使用する上での制限はない。OSについても依存性がない。 
3.読書環境構築上の条件
@必要なソフトとその入手方法
・Adobe Acrobat4.0(実売価格 約24,000円)
・Adobe Acrobat Reader4.0(フリーソフト)  
 パソコン関連雑誌の付録CDーROMにも収録されているが、以下のサイトからのダウンロードも可能      http://www.adobe.co.jp/products/acrobat/readerdnldw.html
・Netscape Communicator4.7(フリーソフト)     
 Internet Explorer 5.01でも可。パソコン関連雑誌の付録CDーROMにも収録されている。 
A周辺機器  
通常データを使用する場合においては、特別な周辺機器は必要ないが、印刷された図版や画像等をPDF化する場合には、スキャナーが必要。また、スキャナーで取り込む際の解像度によっては、データの規模が大きくなるため、ファイルの受け渡しにはCDーROM等の大容量の記録媒体を用いる必要が出てくるため、CD/RWやMD等の機器が必要。
27インチ以上の大型ディスプレイがあれば、画面との視距離が稼げる上、ある程度の拡大でも視認性が高まるという利点もあるが、表示倍率に余り制限がないため、ノートパソコン等の小型液晶ディスプレイでも十分対応が可能である。
Bデータの入手方法
今回使用した小説等のテキストファイルやHTMLファイルは、以下のWEBサイトからダウンロードできる。著作権の期限が過ぎたものはほとんど無料で入手できる。
・「青空文庫」    http://www.aozora.gr.jp/
・「電子図書館」    http://www.wao.or.jp/naniuji/04bekkan.htm
・「eーNOVELS」(有料サイト 短編100円程度でミステリー小説が入手可能。PDF形式で販売している。    http://www.e-novels.net/
4.この読書環境を使用する上での弱視生徒の必要条件
@視力程度等
 このシステムが全ての弱視生徒の読書環境を支援できるものではないが、画面上でのマウス操作が可能な程度の視力があれば、極めて短時間の指導で利用できると思われる。教材を教員が準備し提供するという前提であるならば、全くパソコンを知らない生徒でも、パソコンの起動・終了の方法、ソフトの起動・操作・終了の方法、データの読み込みと保存方法及び大雑把なマウス操作方法等の習得のみで、単独利用が可能である。機器の基本的な操作方法等には、4〜5時間程度の学習が必要である。
 画面上のマウスの視認が困難な生徒に対しては、キーボードでの操作方法を習得するための指導に若干時間を要す。 
A指導の導入時期
 小学部段階では、弱視児道・生徒に対する文字指導や視機能訓練等が優先される時期である。よって、他に必要な項目を犠牲にしてまでも、こうしたパソコンの利用方法を指導するべきではない。早くても中学部3年時あたりの情報処理教育の中に、その導入時期を考えている。
【参考文献】
〇「見ればわかる図解式 Acrobat4」 ランディング編著 株式会社エクシード・プレス発行
〇「Acrobat4. 0でデジタルドキュメンテーション」 菅野雄一著 株式会社エスシーシー発行
〇「Acrobat4. 0のすべて Windows版」 エーアイ出版発行 


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